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めっき加工の現場から、技術や品質へのこだわり、業界の最新動向などをお届けします。
現場の声や知見を通じて、エルグのものづくりを深掘りするコラムです。

2025.07.01

鉄鋼を守る技術 ― サビ・スケール・スマット徹底攻略

鉄鋼って、普通にサビやすい金属っていうのが一般常識。
これは、鉄鋼製品を大気中の放置した場合、環境によって表面が変質してしまうからです。
常温では、水や酸素と反応(酸化)してサビとなります。
この最初に発生するサビの正体は、黄錆(塩基性水酸化第二鉄)なんだけど、時間が経過すると脱水して、皆さんお馴染みの赤錆(ヘマタイト/酸化第二鉄 [Fe2O3])になります。

高温で酸化すると、「スケール」という厄介ものが発生します。
これは、素地表面と変質層の界面に発生して、ウスタイト(酸化第一鉄[FeO])やマグネタイト(四三酸化鉄皮膜/黒染め[Fe3O4])、ヘマタイトという酸化物で構成されます。

このスケールを鉄鋼部品から除去するには、ショットブラスト、研削・研磨、酸洗いで行います。
でも、ショットブラスト、研削・研磨だと、部品全体の処理が難しいので、酸洗い(ピックリング)が多いです。
酸洗いの場合、困ったことに、スケールが除去されて素地が露出した部分へ過剰に反応する(オーバーピックリング)と、スマットが残るという問題が発生する場合があるので、更に処理は続く・・・。
ところで、一般に、鉄の酸洗いには硫酸と塩酸、リン酸が使用されます。

硫酸 は、お安くて工業的に重宝される酸です。
常温の場合、H2SO4として80~120g/L、
加温(60~80℃)の場合、30~50g/Lで使います。
加温した方が、処理時間が短くて、酸がへたるのも抑えられます。
(へたる・・・伝わるかしら?)

塩酸 を使用した場合は、酸の力が強いので、硫酸よりも酸洗い後にきれいな地肌になります。
でも、完全にスマットを除去できない場合があるので、オーバーピックリングに気を付ける必要があります。
処理は常温で、HClとして120~150g/Lで使います。

真鍮などの銅合金の酸処理は、一般的に「キリンス」という処理が行われます。
これは、スケール除去と光沢浸漬(化学研磨)をいっぺんにやってしまうすごい処理なんです。
でも、硫酸や塩酸、硝酸の混酸を使って処理するので、処理中に発生する窒素酸化物や排水処理が大変になってしまうのであまり使われなくなりました。

先ほど書いた、「スマット」ですが、これも厄介ものです。
鉄鋼などを酸に浸ける処理をやりすぎた時や、アルカリ溶液でアルミニウム合金の酸化皮膜を除去する時に、微粉末状の黒色物質が素材表面に現れます。

現場的には『脱脂処理、除錆処理でも除去できないもの』と言われています。
なので、炭素やケイ素を多く含む鉄鋼は、めっきの前処理でスマットを発生することが多く、難めっき素材と言われています。

通常、炭素、ケイ素含有鉄鋼材に対してめっき工程では、平滑化、光沢化、バリ取りを目的として、「化学研磨」という処理を行います。
ただ、この化学研磨に使う処理液には酸が含まれていますが、炭素やケイ素は溶けないので、素材表面にスマットとして残ります。
このスマットを残したままめっきすると、当然、密着不良や耐食性低下、外観不良となる可能性が高くなります。

これを除去するには、刷毛洗い、バレル研磨、電解洗浄、専用除去剤に浸漬する方法があります。

【浸漬洗浄】

浸漬洗浄は、ただ処理液に浸けるだけなので、素地金属に対してとっても強い化学作用が必要になります。
その強い化学作用で、スマットを酸化させながら表面に酸化膜を形成させて、鉄表面はアルカリで溶かして、表面に食い込んだスマットを浮き上がらせて取るというもの。
この場合、後工程に軽い酸洗いをして、中和をすることが必要になります。

【電解洗浄】

電解洗浄は、アルカリと、添加物のキレート作用によって汚れを
乳化分散した上、更に水の電気分解で発生するガスの攪拌作用を利用してスマットを取ってしまおうというもの。
陰極電解法よりも陽極電解法の方が、効きます。

これは、陰極には水素ガス、陽極には酸素ガスが発生して発生量は、

陽極電解の場合、更に、陽極側では素材を溶かすことも出来るので、食い込んだスマットも素地を溶解することと発生するガスによって除去が可能になります。
また、素材の溶解により表面酸化が起こりやすいですが、水素脆性の心配はありません。
陰極電解の場合は、素材の溶解はありません。
不動態化層の活性化作用がありますが、スマットの発生や、水素脆性の問題があります。
もっと効果が高いのは、陰極と陽極が交互に切り換わるPR電解で、素地溶解とガスによる物理的作用の相乗効果によるためです。

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