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めっき加工の現場から、技術や品質へのこだわり、業界の最新動向などをお届けします。
現場の声や知見を通じて、エルグのものづくりを深掘りするコラムです。

2025.10.08

めっきの法規制

めっきに関わる法規制のうち、国内のものは他のコラムで紹介しましたが、国際的な規制もあるって知ってます?
まず、EUの 「ELV (End-of Life Vehicles)指令」 廃車指令です。
これは、使用済み自動車の廃棄やリサイクルに関するEUの指令で、資源の有効活用と環境負荷の低減を目的として2000年に制定されました・・・結構古いんですね。

具体的には、自動車メーカーに対して車両の設計段階からリサイクルを考慮することを義務図けて、廃車時にも有害物が発生しないよう適切な処理プロセスの構築も要求されています。
現在は、車両重量の85%以上をリサイクル、再利用することが義務化されています。
で、なんで、めっき業者がこの指令に関わってくるのでしょうか。
それは、この指令によって自動車部品にカドミウム、鉛、水銀、六価クロムの4物質の非含有※1が求められ、
含有している場合にはEU加盟国に輸出が出来なくなったのです。※1 最大許容含有量(閾値)の設定があります。

そして、EUの「RoHS指令」 電気電子機器に関する特定有害物質の使用制限に関する指令では、ELV指令の4物質に加えて、2種類の臭素系難燃剤、ポリ臭化ビフェニルとポリ臭化ジフェニルエーテル、更に4種類の可塑剤、フタル酸エステル類、
フタル酸ジ-2エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソブチル(DIBP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)が追加されました。

次に、EUの「REACH(Registration, Evalution,
Authorisation and Restriction of Chemicals)規
則」 化学物質の登録・評価・認可・制限に関する規則ですが、農薬や医薬品を対象外とした、EUにおける化学物質の総合的な登録・評価・認可・制限の制度です・・・法規制名のままか。

この規制は、被との健康と環境の保護、欧州化学産業の競争力の維持向上を目的に2007年に発効されました。
このREACH規則で対象となるのは、単体の化学物質だけでなく混合物、調剤物質、溶液、成形品の含有物質も対象となります。

REACH規則では、高懸念物質(SVHC)として、2025年6月現在250物質が認可対象物質の候補リストに収載されています。

次は、アメリカ合衆国の「TSCA(Toxic Substances Control Act)」 有害物質規制法です。
この規制は、有害物質の製造や輸入を規制する法律で、化学物質の製造もしくは輸入をする場合に必要な事前通知や許可取得の義務、情報提供義務などを定めています。
TSCAが公布されたのは1976年、2016年にEPA(米国環境保護庁)の権限が強化されTSCAに基づく様々な規制が実施されています。

また、「POPs条約」 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 というのもあります。
POPs条約は、 環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT等の残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の、製造及び使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約です。
日本など条約を締結している加盟国は、対象となっている物質について、各国がそれぞれ条約を担保できるように国内の諸法令で規制することになっています。
日本は、2002年8月に加入し、2005年に国内実施計画を策定しています。

ところで、このような規制、めっき業者はあまり関係ないように思いませんか?
ところが、これらの規制が発効されたことで、自動車や電気電子機器のメーカーは、サプライチェーンを遡って自社製品に含まれる物質の特定が必要になり、めっきされた部品も対象になりました。

あれ?さっきELV指令では、設計段階からって謳っているのだから、作ってしまったものは関係ないんじゃない?  と、思いませんか?
現状、新規品は当然のこと、流通品の成分開示や禁止物質の非含有証明が要求されています。

お客様より当社に依頼があった成分調査では、
●「JAPIA」  【一般社団法人 日本自動車部品工業会】
●「chemSHERPA」  【アーティクルマネジメント協議会】
●「IMDS」  【自動車業界向け材料データベース】

などのツールが使用されていて、めっきの場合、有機不純物が含まれる場合がありますが、大体のものが析出させた金属の約100%※2で構成することができます。
※2 実際にはワイルドカードとしてMISC not to declare秘匿物質などとして10%くらいは申告しなくても良い場合があります。

では、どんな感じで調査されるのか少し見てみましょう。
当社は、殆どがお客様から部品をお預かりしてめっきをしてお返しする業態であるので、調査対象は当然「めっき」になります。
この際、下地めっき上に仕上げめっきの仕様や多層めっきの場合、分けられる単層毎に成分を記入します。

【JAPIA】

【chemSHERPA】

【chemSHERPA】

まぁ、どのツールを使っても記載内容は同じなのですが、法規制が改訂されるとバージョンアップされるので都度更新を要求されることもあります。

更に、製品含有物質だけでなく使用している原材料の調達先を調査することもあります。
これが、アメリカ合衆国の「ドッドフランク(Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)法」 米国金融規制改革法です。

この法律は、アメリカ合衆国の連邦法律でアメリカの上場企業に適用され、鉱物取引による人権侵害や紛争の悪化を防ぎ、企業の透明性を向上させることを目的として、2010年に制定されました。
米国証券取引委員会(SEC)に登録された企業は、自社製品に含まれるスズ、タンタル、タングステン、金(3TG)の調達先を調べ、これらの鉱物がコンゴ民主共和国およびその周辺国で武装勢力の資金源となっていないかを確認・報告することを義務づけています。
コンゴ民主共和国やその隣接国の戦争で荒廃した国々では、金など鉱物の採鉱活動の収益が、残虐行為を犯している武装民兵、武装勢力の資金源となってきたと言われています。
この調査で紛争鉱物を製品に使っている企業に調達先を開示させることで、これらの資金源を断つことを狙っています。
この調査に使用されるツールは、電子機器業界サステナビリティ推進機関RBA(責任ある企業同盟)の紛争鉱物フリー推進イニシアチブ「責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)」が提供しているCMRT(Conflict Minerals Reporting Template)を使用します。

現在では、EMRT(Extended Minerals Reporting Template)を使用して、雲母、コバルト、銅、グラファイト(天然)、リチウム、ニッケルも調査対象となっています。

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